何で新学期早々こんなに走んなきゃいけねぇんだっ!!! 「ちくしょーーーーー!!あいつら何でもっと早くに起こしに来ねぇんだよっ!!!」 まぁ時間を気にしてなかった俺が悪いんだろうが、今はそれどころじゃねぇ!!! このままじゃ! 「――負けちまうぅぅ!!!!」 更にスピードをあげて走る俺の今の姿ほど間抜けなものはないだろう…。 curriculum2 ライオンと子豚 俺が通う私立男子校"白金学院高校"。 体育館へ続く廊下を、ラストスパートで駆け抜ける。 「さっ、流石に息があがってきやがった…。こりゃマジで鈍ってんなぁ……。」 家から学校まで走れば誰だって息くらいあがんだろうが、昔の俺ならここまで息はあがんなかった。 平和ボケ、ってやつか!? 「兎に角っ!勝負事に負けるわけにはいかねぇ!!」 開かれた体育館の扉を勢い良く―― 「セーーーーーーッフ!!!!」 駆け込んだが… 「「「「アウトーーーー!!!」」」」 あえなく撃沈…。 入り口で膝に手を置き、息を切らしながら勝負事に負けたことを悔やむ俺を見て、体育館の一番奥側の男子生徒たちは面白そうに笑っていた。 壇上の上で俺を驚きの目で見る人物の存在なんか気付く予知もなく。 「くっそ〜!!ぜってぇ俺より遅く来る奴居るとおもったのに!!」 こんなことならマジで走んなきゃ良かった……疲れた…。 俺は体育館内の生徒の中でも、一番柄の悪そうな奴ら、つまり、一番奥側の生徒達の群れの中へと向かった。 男の花道のように、他の生徒達が道を作る。 そんなにビビらなくても何もしねぇっての!! 「お疲れちゃぁ〜ん☆」 「何!?マジで走ってきたの?」 中でも一番楽しそうに俺を迎える5人組に、俺は恨みがましく睨みつける。 「うるせぇ…。どうせ俺は勝負事にも勝てねぇよ…。で?一番早く来た奴って?――陽一か?」 少し長めの茶髪をしたコイツは、南 陽一。 俺が見るに、かなり良い線の瞬発力を持ってる。 「ざぁ〜んねん。俺じゃねぇよ。」 違ったか。 んじゃぁ… 「猛か?」 首元にバンダナ巻いてるのが野田 猛。 パソコン持ち歩いては怪しげなモノ見てるヤツ…。 「これもまた残念。俺も結構ギリだったよなぁ。」 「じゃぁウッチー?」 で、前髪を上げてるこいつが内山 晴彦。 「俺らよりこういうの抜け目ないやついんだろ。」 「まさか慎、じゃないよね?」 まだ少し眠そうな顔してるコイツが3-Dのまとめ役的存在の沢田 慎。 「俺も今来た。」 「そぉそぉ。慎はお前の数分前に来たんだぜ。」 あぁ〜…!! 唯一俺より遅く来ると思ってた慎にまで負けてしまった……。 ってぇ〜ことは……? 「……ま、さか……」 ニカァ〜っと笑う巨漢の男は、俺の方にポンっと手を置き 「じゃぁ、放課後学食な☆」 「…居たなぁ…誰よりもこの勝負に強そうなやつ…」 熊井 輝夫。 体重を聞くのも恐ろしい奴。 よりにもよってクマが勝者とは…… 因みに勝負とは。 今日この日、俺を含む6人の中で一番遅く登校したヤツが、一番早く来たやつに学食一品を奢る、というウッチーが暇つぶしに提案したものだ。 俄然やる気のクマとは反対に、俺や慎は全く興味がなかった。 だが、"勝負事"と聞いちゃやらないわけにはいかず、ついついこいつらに乗せられてしまった、というわけだ。 「ま、一品だけで助かったと思えば良いんじゃねぇの?」 「……慎、人事だろ。」 ま、それもそうなんだが。 クマに好きなだけ食われでもしたら、サイフの中身すっからかんになりかねん…。 「………なぁ?」 「ん??」 陽一が壇上を顎でさし、俺を呼んだ。 「何かあのセンコー、さっきから間抜けな顔してお前のこと見てないか?」 「はぁ?んな間抜けな顔したセンコーに知り合いなんて」 居るはずねぇ、と言うはずだったのに… 「「っっ何でいんだぁぁ!!!?」」 「でぇ〜??はあのセンコーとどういう仲?」 「猛。変な言い方すんなよなぁ。」 3-Dの教室の後ろの席で、俺と慎を囲むように猛・ウッチー・クマ・陽一が陣取る。 慎はやっぱ眠かったのかまぁ〜た寝てやんの。 ってか俺も眠いんだが…。 さっきの騒ぎでこいつら、俺に質問攻め。 「あいつはただの……」 「「「「ただの!?」」」」 言えねぇ…。 例えこいつらでも言える事と言えねぇことはある…。 少なくとも今はまだ。 「たっ…ただの――そぉ!保護者同士が知り合いなだけだっ!!」 嘘じゃねぇけど、こんなんで納得し 「なぁ〜んだ、保護者同士の知り合いか。」 「つまんねぇの。」 「期待して損したぜ。」 って、納得したのかよっ! しかもお前らいったい何を期待してたんだ!? 「……わかりやす。」 ポツリと呟いた慎の声は俺には聞こえていなかった。 その頃、さっきのセンコーこと山口 久美子は3-Dの教室の前まで来ていた。 「なんであいつがこの学校に居たんだ!!?あたしゃ聞いてないぞ!?」 今考えても仕方ないと思ったのか、気を引き締める久美子。 「ファイトッ…………オー………」 小声で気合を入れ、いざ3-Dの扉に手をかける。 「でもよ〜。さっきの色気ねぇセンコー。」 これもまたひでぇ覚えられ方だな…。 「あのセンコーに比べたら、の方がまだ女に見えねぇ?」 「はぁぁ!!!?」 なっ、何を言い出すんだウッチー!!!! 「おっ、俺は男だっっ!!!!」 「そんなむきになんなって。何となく思っただけだって。」 「何となくでも思うなっ!」 クラス全員が好き勝手なことをしているその時、3-Dの扉が開き教室内が静かになった。 「………う、っそだろ…?」 教団に立ったそいつは、さっきの色気ねぇ…もとい、山口 久美子だった。 向こうも、奥に座る俺に気付いたのか、まぁ〜た驚いてやがる…。 「えー、改めて自己紹介します。」 その声を合図にするかのように、再び雑談が始まった。 俺も寝不足のせいか、瞼がどんどん閉じていく。 「眠いのか?」 起きてたのか慎。 「…ん……ちょっと。」 慎の手が俺の頭に置かれると 「寝ろ。何かあったら起こしてやる。」 「…サンキュ。」 その好意に甘え、俺は机につっぷして眠りに入る。 その横で、慎もまた目を閉じた。 「しっかしよく寝るよなぁ。」 誰だ?――陽一か? 「っつか、のやつ何食ってんだ!?すっげー軽いぞ。」 クマの声がやけに近いぞ…? 「バァカ、クマが食いすぎなんだよ。」 猛も。 ってことはみんないんのか? 「お、起きたか?。」 「……ウッチー?」 景色が動いて……って!!! 「なっ!!?何で俺クマにおんぶされてんだ!!?――っぅわ!」 ガバッっと勢い良く体を離したせいで、落ちかけた…。 クマはそっと俺をおろす。 「お前がいくら起こしても起きねえからクマに運ばせたんだよ。」 「え…ぁ、わりぃ…クマ。」 「いいって重くなかったし、っつか軽すぎたくらいだったぜ。」 まぁ、そこで"重い"なんて言いでもしたら、蹴りの一発くらいは入っただろうなぁ。 ん?ってかココ… 「――学食…」 「「「「イエ〜〜ッス☆」」」」 「…やっぱ覚えてたか。」 「忘れるわけねぇだろ!?――あ〜、何にしよっかなぁ〜。」 クマが食い物選んでるうちに、俺たちは席についた。 流石クマ。 他の事は忘れても、食い物のこととなるとしっかり覚えてんだな…。 「っ!決まったぞ!!」 「はいはい。」 クマが嬉しそうに手招きしてくる。 「で?何食うの。」 「カレー☆」 …意外と普通? 「大盛で!」 やっぱクマだ…。 「なぁなぁ!山口 久美子どう思う?」 「山口 久美子って、あの眼鏡っ娘かぁ?」 「あいつ、もう学校にこねーんじゃね?」 「クマ見てビビッてたもんな。」 まさか。 ありえなさすぎだろ。 何があったかはしらねぇけど、あいつがビビルなんてそうそうありえねぇ。 俺の視界に話の中心人物、山口 久美子が見えた。 「俺、"こねぇ"に百円!」 「じゃ、俺は三百円。」 陽一も猛も、掛け金少なっ…。 ってか、ぜってぇ聞こえてんぞ。 「慎は?」 「パス、俺興味ねーから……」 「じゃぁは?」 「俺も」 「ちゃんってば、逃げるのかぁ?」 ムカッ!!! 「"来る"に千円っ!!!」 「「「「マジかよ」」」」 俺はニッっと含み笑いで、こっちを見ていた山口 久美子を見た。 あ〜あ…。 帰ったら説明しに行かなきゃダメかな。 めんどくせー…。 戻 / 続 |